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シン・ゴジラの制作プロセスを支える編集ワークフロー

勤務先の大学で、学部広報なかのひとをやっています。
これは、その学部オウンドメディアで公開したレポートの転載です。

先日書いたように、Adobe MAX 2016のキーノートハイライトで、ゲストセッションとして編集・VFXスーパーバイザーを担った佐藤敦紀氏による「映画『シン・ゴジラ』を紡ぎあげるまで」が行われ、その後のラウンドテーブル(比較的少人数による取材セッション)に参加させていただく機会を得た。
その内容は、Macお宝鑑定団ブログや各種メディアの記事を読んでいただく方が適切と思うので、ここではその過酷な制作を支えたワークフローとシステムについて書いてみたいと思う。

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シン・ゴジラは大作だが、だからといって潤沢な予算とスケジュールが用意されていたわけでは無い。佐藤敦紀氏にオファーがあったのが2015年1月、クランクインが8月、クランクアップが10月。そして公開予定が2016年夏。これはVFXワークを多用する長尺作品としてはとんでもなくタイトなスケジュール。
この時点でプリビズをワークフローの基幹に据えることが決定していた。プリビズ(PreViz:プリ・ビジュアライゼーション)自体はハリウッドの映画制作スタイルではいまやごく普通に行われている方法だし、日本でも押井守映画やCGを多用するアニメーションではすでに導入されている。実制作(主に撮影工程)の前に、簡易なCGや、画コンテ、ときに写真や実写映像を使って完成イメージの可視化を行うもので、演出的な観点、カメラワーク的観点、VFXの観点など、多面的にプリプロダクション(撮影前工程)を行う、映画にとっての「下書き」とでもいうべきもの。

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一見、余分な手間暇をかけているように見えるが、これにより撮影セッティングやCGI等の作業効率が向上し、結果的に時間、予算、そしてなにより作品の一貫性が得られるメリットがある。
そして、さらにシン・ゴジラにおいては、準備稿から声優による(可視化ならぬ)可聴化が行われ、音声ライカ版ラッシュ(音声のみでなぜライカ版というのか謎。ああ、質問すれば良かった)として作成された。映画制作においてこの段階で編集担当が作業INすることはレアケースだと思う。佐藤敦紀氏がいかに重要なキーポジションであったかが伺える部分だ。

で、このプリビズの重要性から、そしてそこに「庵野秀明監督」にワークフローを最適化させるためのツールがPremiere Proだったのだと考える。佐藤氏が語っていたように映画業界(少なくとも邦画)においてはオフライン編集ツールはAvidのMCが事実上のスタンダート。とくにオフラインからオンラインへの連携性は盤石ですらある。しかしその一方でMXFに代表される独自形式が核となるシステムは融通性、柔軟性への対応がやや弱い。
「庵野秀明監督」を最大限に活かすフレキシブルかつスピーディな(佐藤氏は「やんちゃな」と呼んだ)システムとしてPremiere Proが選ばれたのだとも言えようか。

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そして、シン・ゴジラにおけるプリビズ版ラッシュはそこで役目を終えるものではなく、そのまま編集ワークフローの核としてオフライン編集工程に移行する。

つまり本篇撮影が始まると、順次そのファイルが送られてくる。その素材は編集を通してポストビズ作業に使われ、VFX作業のベースとなっていく。

撮影はARRIのALEXAが3台、キヤノンのXC10が3台。そしてiPhone。このカメラ群がほぼ常に回っている、つまり1テイクあたり7カメのマルチカム撮影がごく普通に行われ、さらに位置を変えた別テイクもあるので、1カットあたりのカメラアングル数が凄いことになっていた。ALEXA、XC10、iPhone、それぞれ2.8K、4K、4Kの解像度を持つが、それらはD.I.T.を経て横2046pixelのProRes LTファイルとして編集室に送られる。最終的に100TBを遙かに超えたらしい膨大な素材とカメラアングルを編集するには、素材の的確な管理が欠かせないがシン・ゴジラにおいては4台のMacが協業して編集を行ったという。


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メインのMac Proに接続された高速RAID(シン・ゴジラのエンドクレジットを見るとG-Technologyのロゴがあるので同社製のものと思う)に2Kの素材が置かれ、そのRAID DISKに編集助手のMac(iMac 2台、Mac mini 1台)がアクセスして、素材の整理等を行う。通常1台のマシンで編集を行う邦画に於いて、アシストとは言え複数台のマシンが同時アクセスして作業するのは珍しい(ワタシは初めて聞いた)。高速なストレージ上とはいえ2K LTの映像データをネットワーク越しに複数台同時に作業するのは(レスポンス的に)厳しいのではないのかと質問したが、佐藤氏は作業自体のパフォーマンスに問題はなかったと即答しました。
クリエイティブは単独のパワーも重要だけど、並列のパワーというか分散作業にどこまでスムーズに応えるか、が今後もっとも重要になると思っているワタシにはとても驚き、そして刺激された部分。

通常のワークフローだとオフライン編集が終わってからオンライン編集に移行するのだけど、シン・ゴジラ(に限らずだけど)では編集とVFX工程が同時並行で走る。佳境とはこういう状態。
VFXスーパーバイザーでもある佐藤氏は当然(?)VFX制作の拠点となる白組VFX-STUDIOに常駐することになる。だからといってスタジオカラーの編集室(khara編集室)にいる庵野監督と作業スピードや密度が落ちては意味が無い。
今回、もうひとつ驚いたのがここ、編集も佳境に入っているなか、このふたつの制作拠点はネットワークで結ばれ、互いの制作物がスピーディに同期、共有されるワークフローが実現されていたこと。

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東宝PictureElement serverを核に、それぞれの編集室がPECloudと呼ばれるIPv6ネットワークで結ばれ、同期される。これらは光回線でありながらクローズドなネットワークを形成し、佳境の制作現場を支える。ハリウッドの大作映画なら、地球の裏側で撮影チームが撮った映像が本国の編集スタジオに転送され、翌朝にはフィードバックが現地に入る、といった時差を利用した制作体系も珍しくは無いが、日本でこのようなワークフローは非常に珍しい。
100TB超のデータバックアップの(時間的)困難さについて質問したところ、この3カ所を束ねるシステムが実質的な相互バックアップを構築していて、ローカルなバックアップは不要だったという回答があり、分散環境が同時に冗長性も兼ね備えていることに唸った。

Adobemax2016

シン・ゴジラの編集ワークフローを支えたのは、佐藤敦紀氏であり、多くのスタッフであり、安価で柔軟性に富んだPremiereProというアプリケーションだった。

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コメント (1)
  1. 佐藤敦紀 より:

    今頃になってこのページに気がつきました
    とりあえげていただいてありがとうございました
    音声のみでライカ版とはコレいかに?という疑問ですが
    完全な音声だけではなくシーン名と脚本上のト書きは全て映像化し
    むしろト書き部分でセリフのない部分の間尺を推定で補い
    全体尺の推測を行なっていたということです
    という部分もあるのですが まあ音声版のこのムービー
    あまり事例がなく呼び方もなかったので
    暫定的に音声版ライカリールと勝手に呼称していたというのが実情でございます
    さらに詳しい話は「ジ・アート・オブ・シンゴジラ」にありますので
    よろしかったらご覧ください

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